それでも朝日は昇る opening

opening ―大陸統一暦1007年―

 南天に、満月がかかっていた。
 大きな出窓を背にした女性に、冴えた光が降りそそぐ。毛足の長い絨毯には、細長く影が伸びていた。
 贅を尽くした寝室。その広い、明かりも灯されていない部屋には、ただ二人だけ。
 長椅子に深く身を沈める王の視線は、窓辺に座る女性に一心に向けられていた。
 ぴぃん、と弦を弾く音が響く。手にしたリュートの調弦を終えた女性は、そのたおやかな指をそっと弦に乗せた。
 流れたのは、ゆるやかで物哀しい旋律。こぼれ落ちるように重ねられたのは、艶やかな歌声。


   白い薔薇は王の取り分
   黄金の玉座 緑の野
   彼の王権に 栄えはあれど
   王の孤独を誰ぞ知る

   赤い薔薇は魔女の取り分
   右手に秤 左に剣
   大地も己も 朱色に染めた
   魔女の心を誰ぞ知る

   黒い薔薇は賢者の取り分
   王者の光 魔女の影
   終わりなき世の 果てまで見ゆる
   賢者の悲痛を誰ぞ知る

   黄色い薔薇は王妃の取り分
   天の理 地の定め
   狭間に在りて ただ立ち尽くす
   王妃の虚無を誰ぞ知る


 女性の歌に聞き入っていた王の頬を、一筋涙が伝った――。
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