ある日の国王夫妻

 何度目かのレーゲンスベルグ訪問から戻ったある日、国王夫妻はいつものように私を晩餐の席に招いてくれた。
 いつものように楽しい夕食をいただき、いつものように談話室で暖炉を囲んだところで、私はお二人にこの話を切り出した。
「今日は陛下に喜んでいただけるご報告があるんです」
「なんだ?」
「セプタードが結婚します。これからは奥さんになられる方と一緒に『粉粧楼』をやっていくから、陛下にもよろしく伝えてくれと」
 私の言葉に、陛下は子どものように満面の笑みを浮かべた。
「そうか、あいつも結婚するのか! で、相手はどんな女なんだ? 俺の知ってる奴か?」
 当然の問いかけは、私はにこりと笑う。
「アデライデさんといって、とっても素敵な方ですよ。レーゲンスベルグに行く楽しみが、一つ増えました」
「そうかそうか。でもその名前は覚えないな……」
 記憶を辿るように眉間に皺を寄せ、グラスを口に運んだ陛下に、私はとっておきの言葉を投げた。

「エルマラだって言えば、カティスなら一発で判るとセプタードから聞いてます」

 その瞬間陛下は、口の中に含んでいたお酒をものくそ吹き出した。
 そして。

「あなた」

 どこか面白がるような、けれども威圧感のある低音が、談話室に響いた。
「ま、マリーシア……」
「私は、自分と出会う前のことまで遡って嫉妬したり、責めたりするほど愚かな女ではありません」
 談話室の温度が、二度は下がった気がした。そんな凍り付く空気の中、マリーシア様は超絶的に艶やかに陛下に笑いかける。
「でも、私と出会う前にどんなことがあったのか、あなたがどんな人だったのか、それを知りたいと思うことは、妻として決しておかしなことではないと思いますけど、いかが?」
「か、勘弁、してくれないか……?」
「いや」
「とりあえず、おふたりでごゆっくりー」
 私は国王夫妻のそんな愉快なやりとりに、不敬極まりない発言のみを残して談話室を後にした。
 そんな私に、マリーシア様は後ろ手をひらひらと振ってくださった。


 翌朝、廷臣たちは疲れ切った顔をした陛下に、昨夜は何があったのかと案じ。
 王妃の下に伺候した私は、「昨日は楽しかった」という予想通りの発言に迎えられる。
「次行く時には、私からも結婚のお祝いを持っていってね。言うまでもないことだろうけど、アデライデさん宛に」
「もちろんです、王妃陛下」
 マリーシア様のかげりない満面の笑みに、私も紅茶をすすりながら笑顔を浮かべる。

 対外的にも内情的にも、いかな大問題を抱えようとも。
 かようにアルベルティーヌ城の後宮は、いつだって平和だ。

Page Top