南天に、満月がかかっていた。
大きな出窓を背にした女性に、冴えた光が降りそそぐ。毛足の長い絨毯には、細長く影が伸びていた。
贅を尽くした寝室。その広い、明かりも灯されていない部屋には、ただ二人だけ。
長椅子に深く身を沈める王の視線は、窓辺に座る女性に一心に向けられていた。
ぴぃん、と弦を弾く音が響く。手にしたリュートの調弦を終えた女性は、そのたおやかな指をそっと弦に乗せた。
流れたのは、ゆるやかで物哀しい旋律。こぼれ落ちるように重ねられたのは、艶やかな歌声。
白い薔薇は王の取り分
黄金の玉座 緑の野
彼の王権に 栄えはあれど
王の孤独を誰ぞ知る
赤い薔薇は魔女の取り分
右手に秤 左に剣
大地も己も 朱色に染めた
魔女の心を誰ぞ知る
黒い薔薇は賢者の取り分
王者の光 魔女の影
終わりなき世の 果てまで見ゆる
賢者の悲痛を誰ぞ知る
黄色い薔薇は王妃の取り分
天の理 地の定め
狭間に在りて ただ立ち尽くす
王妃の虚無を誰ぞ知る
女性の歌に聞き入っていた王の頬を、一筋涙が伝った――。