胸の底に、一かけらの言葉が落ちていく。胸の一番底にある湖面に言葉はぽつんと落ちて、波紋を描く。
私はアイラに会って、それでどうするのだ。
ぽつん、ぽつんと落ちる問いかけは、胸の底で幾重もの波紋を描き、さざ波を起こす。荒ぶる波ではなく、ただゆらゆらと揺れ、押し寄せ、揺り返す。
アイラに会える。けれども、それは何のためなのだ、と。
そして私はアイラに会って、それでどうしたらいいのだ。
禁書の間を出ると、驚いたことに昼をとうに過ぎていた。赤の禁書を読破するのに、それほどの時間がかかったらしい。それほどあの書に記された物語は長く詳細で、そして重すぎた。
レインは慌ただしく仕事に戻っていった。レインの忙しさは、秘書の私が一番よく知っている。彼がこの後のシャンビランへの日程を空けるためには、かなり頑張って仕事を終えておかないといけないのだろう。そんな私に彼は手伝えと言わず、私も言いださなかった。こんな動揺しきった自分が、使い物になるとは到底思えなかった。
何も喉を通るわけがないと思った。けれどもこんな時だからこそ、空腹と疲労でふらふらになっているわけにはいかないことも、理性は理解していた。シェイラが用意してくれた昼食を、時間をかけて何とか胃に収め、言いつけ通りベッドにもぐり込んだ。興奮と疲労の綱引きの中、何度か夢と現実の往復をし、そして。
何度目かの目覚めで私は、自分が意外なほど落ち着いていることに気づいた。
アイラとカイルは死んでしまう。これから二年が過ぎれば、二人は私の手の届かない遠いところへ行ってしまって、そこで短い生涯を閉じてしまう。しかもアイラは、自殺としか呼びようのない無残な最期に追い込まれる。そこに到るまでの余りある苦悩と悲嘆、そして残されたカイルの悲痛を思えば、その結末はあまりにもむごい。あまりにもやりきれない。
そう思う自分も確かにいる。彼らの運命を、受け入れたくない、受け入れられないと叫ぶ自分もいる。
けれども、そんな自分に問いかける別の自分がいる。怒るのでも諭すのでもなく、ただ淡々と問いかける自分が。
じゃあ、どうするの? アイラに会って、それでどうするの? と。
歴史を変え、全てなかったことにするの? と。
自分でも驚くほど、私は静かだった。胸の中はまるで嵐の前の静けさのように、不穏な気配がわだかまり、わずかに揺り返しながらも凪いでいる。
私は小机の上に置いた、赤の禁書をそっと撫ぜた。これは私のものだから、持ち出しても構わないとレインが言ってくれたので、ありがたく借りてきたのだ。はらりとページをめくり、綴られた物語に目を向ければ、胸の湖底がさわりと波立つのが判る。
だがそれは怒りでも、悲しみでもない。変えられない運命という存在に対する憤りでもなくて、私は戸惑う。
その思いを、私はどう表現してよいのか判らない。
もしそれを敢えて表現するとすれば――そうして浮かんだ言葉に、私は愕然とした。
まるで、裏切られたようだ。
まるで、見捨てられたようだ。
でもどうしてそんなことを、私は感じるのだろう。
じゃあ私は、一体何に裏切られたというのか。一体何に見捨てられたというのか。
アイラとカイルのこの悲しい物語の、一体何が私をこんな思いへと押しやるのか、見当がつかない。
けれども確かに、胸の中のどこかが、ちりちりと灼けていた。何かに対して、確かに私は苛立っている。確かに私は反発している。確かに私は憎悪している。
確かに私の中のどこかが、負の感情で灼けついている。
だがその感情が何なのか、自分が今何を考えているのか、何を感じているのかが、私には判らない。
――いや、それは、私自身が判っているのに、懸命に気づかないようにしていただけなのかもしれない。
なぜならレインに連れられ、シャンビランへの道のりを進んでいくうちに、それはだんだんと形を成していっていたのだから。
レインは私のために馬車を仕立ててくれた。私も馬には乗れると言ったのだが、どの方向に事態が転がるにしても馬車が一台あった方がいい、と彼は主張した。そこで彼がはっきりとは言わない、けれども想定している事態に予測がついた――彼は、帰りに人数が増えるかもしれないと思っているのだ。
それを選んでいいのか。そうレインに問いかけたくなった。レインはシャンビランの山荘にある抜け道を逆に辿って、『赤の塔』に直接入り込もうとしている。その方法なら、アイラとカイル、そして二人の乳母であるコーネリアを誰にも見とがめられずに脱出させることができる。
そう、方法論としては、可能だ。
だが、赤の禁書は繰り返し語る。アイラの言葉として、カイルの言葉として、二人の紡いだ絶望の言葉として。
歴史は、運命は、決して変わらない、と。
おそらく私にも、歴史は変えられない。私はアイラとカイルを、助けることはできないのだろう。だから私がかつていた1219年があり、私は己の怒りをもって今この1215年に来ることになったのだ。ねじ曲がり、輪となった時間とその因果に、アイラたちだけではなく私も捕らわれている。
それが判っていてなお、お前は何をしに行くの? 私は私に問いかけ続ける。レインが操る馬車は、セミプレナ街道からアルベルティーヌへと向かい、そこからシャンビランへの山道へと入る。
1219年、あの仮面の女と向かい合いながら進んだ悪路。同じ馬車道を、今は独り。ただ思いだけが、ぐるぐると胸の中で渦を巻く。
そうだ、私はもう多分、判っているのだ。
どうして私がこの二ヶ月、アイラとカイルを助けることばかりに執心してきたのか。
どうして私が今、裏切られたような、見捨てられたような気分に駆られているのか。
どうしてこんなにも胸の中が、妬け爛れているのか。
そもそも、どうして私が、アイラとカイルの二人を愛おしく思ってきたのか。
愛おしいと思うことで、気遣い世話を焼くことで、私が自分の中の何を満たしてきたのか――。
それが判っていて、どうして私はアイラに会いに行こうとしているのだろう。その上で、私は何をしたいのだろう。私は自分自身からの問いに、答えを出すことはできない。
判らない、としか答えられない。
でも、と私は私自身に言葉を返した。それがただ一つ、偽りも間違いもない正直な気持ちだ。
それでも私は、アイラに会いたいのだ。その顔を見、その声が聞きたい。それだけは、偽りのない本当の気持ちだ。
だから私は、レインに伴われて進んでいく。それでも進んでいく。
辿り着いたシャンビランは、1219年よりも荒れ果てていた。なるほど、確かに1217年に、カイルワーンが手を入れたのが判る。夕刻に辿り着いた私たちは、馬車の中で時を待った後、計画を実行に移した。
忍び込むのは、夜半過ぎ。いきなり食料貯蔵庫の床下から出てくるのだから、住人が起きて活動している時間ではまずい。そして明るいところでは、四年間で生じた私とオフェリアの微小な差異を見抜かれるだろう。レインの指摘はもっともで、私はただ頷くばかりだ。
シャンビラン側の出入口も、空っぽの食料貯蔵庫の中にあった。赤の塔のものと同じ装飾を動かし、隠されていた鍵穴にレインは針金を差し込む。私は彼の手元を燭台で照らし続け、しばし。かちりと音をたてて鍵は外れ、隠し通路への道が開いた。
大陸暦1000年六月十三日、魔女の――アレックス侯妃の侍女だった二人、ベリンダことマリーシア王妃とマリーことマリアンデール・イントリーグはここで別れた、と赤の禁書は記している。道を分かたれた二人はその後、二度と会うことはなかったと。
ぽっかり開いた入口、その暗闇に、私は問いかける。二百年前変えられぬ運命への悲嘆を抱えて友と別れ、ここに辿り着き、やがて自分の同じ運命と傷を抱えた青年に嫁した女性に。
マリーシア様。カティス陛下と共に、私とアイラに連なる血を残してくださった方。
そして親友として、誰よりアイラを支えてくださった方。アイラの最期の願いを汲んで、歯を食いしばって城を脱出し、カティス陛下に出会うまで独りで生き抜いて来られた方。
一緒に逃げよう。アイラが受け入れなかったあなたの言葉を、私は今、口にしてもいいのでしょうか。
そうして全てをなかったことにしてよいのでしょうか。
教えてください。私は、どうしたらいいのでしょう――。
勿論、闇は答えてくれない。時の向こうにいる人も、また。
「行こう」
左手に明かりを持ち、レインは私に右手を差し出してくれた。あの日と同じくその手は冷たく固く、けれどもしっかりと私をつなぎ止め、支え、導いてくれる。灯火を掲げ、暗闇を先に立って進んでくれる。
レインは私に言わなかった。アイラに会ってどうするのだと。それが危険な行為であるということを、下手すれば世界を壊しかねない行いだと自分で口にしながら、それでもどうするのかとは私には聞かないのだ。
レイン、あなたはどうしたらいいと思う? そう聞きたい気持ちはあった。けれども聞かずとも、答えは判るような気がした。
彼は言うだろう。お前が決めろ、と。
その選択は、お前のものなのだと。たとえ、それがあらかじめ、すべて決まっていたことだとしても。
禁書の守り手として、この世に絶対不可変の運命が存在することを知る者として。
その言葉は、とぷんと胸の奥に落ちて、大きな波飛沫を上げた。
たとえ自分が選ぶそのただ一つしか、選択肢がなかったのだとしても。たとえそれがあらかじめ歴史に定められていたことだとしても。
それでも人は、選ばなくてはならないのだ。苦悩と悲痛と矜恃をもって、己の人生を。
カイルとアイラは、そしてレインはそう私に突きつけてくる。
私が選ばなくてはならないのだ。たとえそれで歴史が変えられなくても。何も変えられなくても。それでも私が選ばなくてはならない。
私の人生を。今度こそ、自分の意思で。何一つ他人任せにすることなく、自分の意思で。
そうか、私はそのために、ここに来たのだ。そのために私はアイラに会いに来たのだ。そう気づいた時、長いトンネルは終わりを迎えた。階段を上り、仕掛けを作動させれば、天井が開く。
塔の窓から、月光が降り注いでいた。
「俺はここで待っている」
蝋燭の残量を確認しながら、レインはそう私に告げた。暗がりの中でその表情を確かめることはできなかったが、その声はとても静かで、どこか覚悟を決めたように聞こえた。
だから私は思わず、問いかけてしまった。自分自身でも意外すぎる、その問いを。
「待っていて、くれるのね」
私を。私がここに戻るのを。
レインがくれた言葉のあまりにも大きな意味に、私は震えた。それに彼が気づいたかどうかは、私にも判らない。だが彼は優しい、だがきっぱりとした声で、答えた。応えてくれた。
「ああ、待っている。だから、行ってこい」
その言葉に頷いて、私はトンネルを抜け出した。
足音を忍ばせ、扉が軋まぬように細心の注意を払いながら、私は貯蔵庫を抜け出す。厨房から玄関ホールに抜け、階段を登る。絨毯を踏みしめる微かな音だけをにじませて、私はとうとう最上階に辿り着く。
ためらわなかったわけではない。このままこの扉を開けずに、今来た道を戻った方がいいのではないか。そういう思いも一瞬、心をかすめた。けれども私は意を決して、そっと扉を開ける。
そこは私の中では『失われてしまったもの』だった。もう手の届かない、奪われてしまった場所であり、時間だった。それが今現実として目の前にある。幻でも偽りでも、現在として目の前にある。その奇跡に、私は胸が詰まった。
そうだ、これは紛れもなく奇跡だ。そっと手を伸ばし、寝台のカーテンをまくり上げて、私は嘆息の吐息を漏らした。
胸がいっぱいになって、息さえできない。そんな錯覚を覚えるほどの思いに、胸がふさがれる。
「アイラ……」
小さな呟きは震えて、枕元に落ちて散る。その声と明かりに、毛布にくるまって眠っていたアイラシェールは、うっすらと目を開けた。焦点が合わないかのように茫洋としていた赤い瞳が、やがて私を認める。
「姉様……どうしたの? こんな時間に」
寝台から身を起こし、眠い目をこすりながら、屈託なくアイラは私に問いかけてきた。何一つ、疑う素振りすら見せないアイラに、私は口を開いた。
「あなたの顔が見たくなったの。どうしても、今、あなたに会いたかったの」
「そんな姉様、こんな寝込み襲わなくても、夜が明けてからでもよかったじゃない」
そう言いながら、まんざらでもないように苦笑するアイラに、私も笑った。
けれども、心の中では嵐が吹き荒れていた。湖底は波立ち、大きなうねりとなり、私を右へ左へと揺さぶる。
私の中で、小さな子どもが泣いている。小さな手でスカートを握りしめて、顔をくしゃくしゃにして泣き叫んでいる。
行かないで、と。お姉ちゃんを置いていかないで、と。
私がどうして、アイラとカイルに執着していたのか。その答えは、とても簡単なことなのだ。
私には、アイラとカイルしかすがりつくものがなかったのだ。
赤の禁書はカイルワーンの言葉として語った。カイルワーンがアイラシェールに全てを捧げた理由、それは愛ではなく依存だったのだと。自分が生きる理由を、生きることの許しを、そして何より自分自身の価値を、アイラシェールに尽くすということに求めていたのだと。そうすることで、自分自身の存在の否定を肯定にすり替えようとしていたのだと。そうカイルワーンは、カティス王に語ったと記されていた。
それを読んだ私は、どれほど胸をえぐられたことだろう。あまりの痛烈さに、私は言葉もなかった。
なぜなら、私の思いも、カイルワーンのそれと何も変わらないのだから。
アイラとカイルを救いたい。
自分のことを、姉として慕ってくれる二人に優しくしたい。
今の虐げられた境遇から解き放ち、幸せにしてあげたい。
そう思う私なら、あなたたちは必要としてくれるでしょう。そんな私なら、いらない存在じゃないでしょう。
こんなにあなたたちのことを思う私なら、私は存在していてもいいでしょう――。
カイルワーンが自分の存在の肯定をアイラシェールに求めたように、私もそれを二人に求めていた。二人が必要としてる優しさを、私が与えて上げられている。それが私の免罪符だったのだ。
存在している、生きているという罪に対する、免罪符だったのだ。
アイラシェールとカイルワーンの処刑の話を聞いた後、私が脱け殻になってしまったのは当然だった。私はそこで生きる理由を、存在している許しを失ってしまったのだから。すがりつくものの一切をなくした私は、何もかもがどうでもよくなってしまったのだ。
アイラシェールとカイルワーンがいない世界に、私の居場所は存在しなかった。
私は「二人のいいお姉ちゃん」としてしか、この世に存在する価値を見いだすことができなかったのだ。
けれども二人は、行ってしまう。自らの意思で、私の手の届かないところへ。そうして多くの人と出会い、親友と呼べる人を得て、大きな責任を背負って戦う。
そして最後には、命懸けの恋を全うする。お互いを永遠に自分だけのものにして、自らの人生を選び抜いて、誇りを胸に死んでいく。決して揺るがない完全な恋を、成就させてしまう。
その人生には、私が憐れむ余地など、私がすり寄って何かして「あげる」余地など、どこにもないのだ。
仮面の女は私に言った。アイラシェールの方が、よっぽど私より立派だったと。ああそうだ、私もそう思う。この自堕落で、くだらない、誰にも愛されなかった私の人生より、ずっとアイラの人生の方が立派だ。私が可哀想だと見下して憐れんであげることなど、できはしないのだ。
そのことに気づかされたから、裏切られたような気持ちになったのだ。見捨てられたような気持ちになったのだ。
だから私は、アイラシェールに嫉妬したのだ。誰からも愛されず、勝手な男たちの征服欲や愛国心に体をずたずたにされた惨めな私は、命さえ捨てて貫くほどの恋を全うできたアイラシェールに、灼けつくほどの嫉妬心を抱いたのだ。
本当はもう判っている。本当は赤の禁書を読んだ時から、判っていた。
私にアイラとカイルの選択を――その人生を、否定する権利などないのだ。
二人が命と人生を賭けてまで選んだことを、なかったことにする権利などないのだ。
私がどれほど二人を愛していようとも、その愛が仮に純粋であったとしても、二人の人生は二人のものだ。しょせんは姉でしかない私は、二人を見送ってやることしか許されないのだ。
だって私は、私の人生を、私の力で何とかしなければならないのだから。
この人生がどれほど惨めでも。たとえどれほど愛に満たされない、甲斐のないものであったとしても。それでも私は、自分の人生を生きなければならないのだ。
それをもう大人の私は、百も承知しているのだ。
それでも私の中の、子供の私が泣く。八歳のあの日、母親に捨てられた小さな女の子が。
私を捨てないで、私を独りにしないで、と。
一緒に逃げよう。言葉は喉まで出かかった。
カイルとコーネリアを起こして、お姉ちゃんと一緒に行こう。そう言いたかった。
今私の力になってくれている人が、通路の向こうで待っている。彼なら私たち四人を、反乱の手の届かないところまで逃がしてくれる。そうして遠くに逃げて、みんなで静かに暮らそう。
それが駄目なら、私と一緒にいてくれなくてもいい。
あなたたち二人が、生きていてくれれば、それでいい。
たとえ世界が変わっても。どんな未来が生まれなくても。
最後の最後で、カティス陛下がそう望んだように、そうして二人に一緒に逃げてしまえと言ったように、私も言いたかった。私だって、そう言いたかった。
だけど。
だけど。
だけど。
「姉様……どうしたの? 凄く辛そうな、顔をしてる」
迷う私に、訝しげに、そして気づかわしげに向けられた声。その懐かしく愛おしい声に、私はああ、と嘆きの声を内心であげた。
この一時を永遠にすることができたら、どれほどいいだろう。けれども時は止まらない。戻すことが叶っても、繰り返すことは叶っても、止めることはできないのだ。
だから、だから私は――。
アイラにつと、私は手を伸ばした。燭台を置いて、その白い頬を両手で包み込んで。
その柔らかさを、その温もりを忘れぬように。決して忘れぬように指先に刻み込みながら、言った。
「……そうね。私、とても辛い夢を見ていたの。長くて、辛くて、苦しい夢だった」
ガルテンツァウバーでの二年。それは悪夢だった。高熱に浮かされ、いつ終わるのかも判らぬまま喘ぎ続ける、そんな悪夢だった。
けれども今なら言える。私を差し招くあの女の白い手、それを取って、ここに辿り着いた今だから言える。
あれは、夢だ。もう夢なのだと。
「だけど、夢は終わったの。その夢から、私は助け出してもらえたの。だから私は、一番にあなたに会いにきた。あなたの顔を見て、そして……行かなきゃならない」
私は行かなければならない。そして生きなければならない。
あなたに恥じない人生を。あなたの姉であると、胸を張れるような人生を。
「あのね、アイラ。今会ったこと、これから言うことを、あなたは夢にしてしまうと思う。それでもどうか、覚えていておいて。どうか最後まで、覚えていて」
全ての未練を振り切るように。そして全ての願いを込めて。
私は最後の思いを口にした。
「私はあなたが生まれてきてくれて、幸せだった。私はあなたに会えて、本当に……幸せだった」
あなたがどれほど、自分の存在を呪わしく感じたとしても。
あなたがどれほど、自分の存在を価値ないものと感じたとしても。
それでも私は、あなたの姉として生まれた私は、あなたに会えて幸せだった。
何と訣別しても、どんな思いを断ち切ったとしても、その思いだけは私は胸に抱いていく。胸の奥の一番深い場所に沈めて、それでも決して手放さずにどこまでも持っていく。
それだけは、今の私にも許されるだろう――。
それくらいは、許されたっていいだろう――。
「寝ているところを起こしてごめんね。また明日来るから、ぐっすりお休み」
私は立ち上がり、微笑んだ。ちゃんと笑えたか自信がなかったが、不安そうにしているアイラの頭をくしゃりと撫でて、扉へと向かう。
そして万感の思いを込めて、告げた。
「お休みなさい」
私は思い出していた。この深夜の訪問が、私がかつていた1215年にもすでに存在していたことを。
それは不可解な出来事だったのだ。ある日アイラシェールの元を訪れたら、彼女が言うのだから。前の晩、私が自分のところに来なかったかと。
そんな深夜に自分がやって来るはずがないだろう。第一、内から閂がかかっている塔の中に、どうやって入り込むのかと。
だからそれは夢だろう、寝ぼけたのではないか。釈然せずにいるアイラシェールを、私はそう一笑に付したのだ。
今となれば判る。あれは二人目の私、今のこの私の仕業だったのだと。
だから大丈夫。明日になれば、1215年のオフェリアがこの事件を打ち消してくれる。全てを夢にして、終わらせてくれる。
歴史の因果のままに。
扉を後ろ手に閉めれば、未練の糸が私の背中を引く。階段を降りる途中、中階にあるカイルワーンの部屋の扉の前で、思わず足が止まった。カイルにも会っていきたい。その顔を、最後に一目でも見ていきたい。
私の妹を、こんなにも愛してくれてありがとうと、今まで私のそばにいてくれてありがとうと、礼が言いたい。
けれども私は黙ってかぶりを振り、階段を降りた。かつての1215年、カイルは私と一緒にアイラシェールの疑問を夢だと笑ったのだ。だから私は、カイルに会ってはならないのだ。一人の記憶だから夢にできるのであって、二人の記憶が揃えば必ず誰かが不審に思うだろう。
月明かりが落ちる玄関ホール。愛し人たちが眠る上階を見上げて、私は思いをこぼした。
さようなら。
さようなら。さようなら。
私は空いた拳を懸命に握りしめ、唇を噛んで、涙をこらえた。足音を殺し、それでも必死の早足で食料庫に飛び込み、隠し階段に飛び込んだ。
約束通り、レインはそこで待っていた。待っていてくれた。
「ジュリア、いいのか」
私は無言で仕掛けを作動させた。微かな音を立てて天井は閉まり、入口は閉ざされた。その黒い板に触れ、私はしばし動けなかった。
誰もがこの道を、涙をこらえて進んでいく。マリーシア王妃が、カイルワーンが、未練を断ち切り、失われてしまう愛しい人への思いを、懸命に呑み込んで。それでも自分の人生を生きるために、前へ前へと進んでいった。
その道を逆行してここに辿り着いた私も、正しく前に進まなくてはならない。立ち止まっていてはならないのだ。
どれほど胸が、張り裂けそうに痛んだとしても。
どれほどその別れが、耐えがたかったとしても。
「……行きましょう」
意を決して告げた私に、レインはやはり手を差し出してくれた。彼は何も言わない。中で何があったのか、何をしてきたかと求めることもしない。ただ私の手を握り、黒い隧道の先へ先へと導いてくれる。その鍛え上げられた背中を、私はただ追いかけた。
その長い道のりを終え、シャンビランの山荘の外に出た時、夜が明けゆこうとしていることに気づいた。闇色から濃紺へと色を変えていく空を見つめ、私は胸をぎゅっと握りしめた。
それでも朝日は昇る。だから人は目覚め、立ち上がり、その日を――その人生を生きなければならない。
それがどれほど辛くとも。それがどれほど価値のない人生に思えたとしても。
そうなのでしょう、カイルワーン。
そうしてあなたも、残された人生を懸命に生きたのでしょう。
ああ、と私は嘆息する。体の芯から沸き上がってくる、震えに似た衝動に、私は自分の体を抱きしめた。
胸に広がる途方もない空虚さに、途方もない寂寥に、そして途方もない解放感に、私はなすすべもない。
私は、自由だ。
私は今、真に自由だ。
もう私には何もない。行くところも、帰るところも、守りたいものも、すがるよすがも、縛る枷も、生まれも育ちも、私自身さえも、もう何もない。
オフェリア・ロクサーヌが抱えていたもの、その全て。私を守り、縛り、私たらしめていたものの全てが今、全て消えてなくなった。
だがそのことを、私は不幸には感じなかった。
やり直せるだろう、私は私の人生を。オフェリア・ロクサーヌの惨めな人生を捨てて、新しい人生を、もう一度、最初から。
そしてその新しい人生の一番最初にしなければならないこと、それが何なのかは、もう判っている。
私は詰まっていた息を、大きく吐き出した。生まれて初めて深呼吸をするように、深く大きく一度、二度。夜気とも朝の空気ともつかぬ、冷たい空気を吸い込んで、そして。
目の前に立つ人を見た。
「レイン、私、まだあなたに大事なことを言っていない」
「……なんだ?」
わずかに身構えるレインに、私は自分の中にある全ての誠意を込めて、告げた。
全身全霊を込めて、告げた。
「ありがとう」
何度となく、この言葉を私はレインに口にしてきた。この二ヶ月間、何度となく。
だが私はこの言葉を口にしながら、本当に感謝していただろうか。その真意を疑い、何か裏があるのではと絶えず疑い続けていた私は、本当の意味で感謝などしていなかったに違いない。
思えば今までの私の人生は、いつだってそうだったのかもしれない。自らに与えられたものに対し、感謝の念を抱いたことが一度でもあっただろうか。多くのものを与えられ、人よりずっと満たされた生活を送りながら、足りない寂しい満たされないと言い続けていた私は、とても傲慢だったのだろう。今になって、そう思う。
そんな私が、国民に恨まれたのも、当然だったのだ。そんな私が国民に背かれ、石を投げられたことは、決して故のないことではなかったのだ。
ロクサーヌ朝は、魔女の呪いで――アイラシェールのせいで滅んだのではない。そう私は、初めて心から思った。
「あなたと、この二百年間の一族の方たちに、心から感謝します。あなたたちのおかげで、私は命を救われ、全てを知ることができた。全てに訣別することができた。そして今から、新しい人生を始めることができる」
それはもう、泣き笑いに近かったかもしれない。それでも私は精一杯笑って、レインに向かい合う。
「特にレイン、あなたには感謝してもしたりない。あなたがいなければ、今の私はここにいない。だからこそ、言わせてください。――あなたは初代との約束を、全て果たしたのではないのですか」
レインは私を、険しい眼差しで見つめていた。その真意は掴めないが、私はただ正直に自らの決意を告げる。
「もうあなたは、最後の禁書の守り手という束縛から、自分を解放してください。もう二百年前のことに捕らわれず、あなた自身とあなたの大切なもののために戦ってください。あなたはあなたの人生を、あなたのために生きてください」
泣くな。自分に必死に言い聞かせて、私は手のひらに爪を立てて、レインに告げた。
「私はもう、大丈夫だから」
私の必死の言葉に、レインは答えなかった。どこか怒っているような、だがどこか頼りない複雑な表情を見せ、やがて。
ぽつりと漏らした。
「ジュリア、俺もまだ、お前に話していないことがある」
「……なに?」
「どうしてあの時、俺がお前を助けたのか」
それは意外な言葉だった。レインは初代との約束に従って、私を助けたのではないか。それなのに『どうして』と彼は言う?
「正直に言う。俺が初めて初代との約束を知った時――禁書の目的が、この一族の使命が、ロクサーヌ家最後の王女を救出することだと知った時、俺は激怒した。正直、ふざけんなと、何勝手なことを抜かすんだと思った」
「レイン……」
「今の時代を生きている俺は、初代たちの道具じゃない。なんで俺は、見も知らない女のために、一族の全てを費やして戦わなければならないんだと思った。賢者の読みが当たっていれば、俺たち一族は1217年以降に、ガルテンツァウバーやアルバの暫定政府と敵対しなければならないことになる。それは俺たち一族だけじゃなく、レーゲンスベルグ全体を戦渦に巻き込むことになるかもしれない行為だ。なんで俺は、初代と何の関係もない多くの人たちを危険に晒してまで、何度となくレーゲンスベルグを脅かしてきた王家のために戦わなきゃならないんだと、そう思った」
それが晩餐会の時、彼が言った『騙された』という言葉の意味だと、私は判った。彼の言うことは、もっともだ。どれほど初代が願ったとしても、そのための代償として黒の禁書があったとしても、この計画はあまりにも二百年後の子孫たちをないがしろにしているだろう。その生活を、人生を、全て差し出して戦えと言う権利が、先祖だからといってあるのだろうか。
だけど、ならばどうして彼は、最後の禁書の守り手として、初代との約束を履行したのだろう。
どうして彼は、私を、助けたのだ……?
「お前が時を越え、アルベルティーヌへと来たのは、七月の始めくらい――オフェリア王女の誕生祝いの頃だろう? 俺は大体その一週間後くらいにはもう、お前の噂を聞きつけていた。だからアルベルティーヌに行って、お前の動向を探って、夜会で城の王女の姿と見比べて、お前が二人目の――時を越えてきた未来のオフェリアだという結論を、早々に出していた。俺は二週間目くらいにはもう、お前をあの孤立無援の状況から助けてやることができた」
苦々しく、吐き捨てるように、レインは信じられないような告白を続ける。
「だけど、それを俺はしなかった。お前が城に忍び込もうと――妹たちを助けようとしているのを、判っていてただ黙って見てた。……できるものならやってみろ、世間知らずのお姫様がせいぜい頑張ればいい。その時、そこまで俺は意地悪く考えて、高みの見物を決め込んでいた。それくらい俺は、王家と王女に対して、反感を持っていた」
それは仕方ないかもしれない。ロクサーヌ家の歴代王は、歴史の真実も初代の意思も何も知らないまま、幾度となくレーゲンスベルグを併合しようとしたのだから。
だけど、だけどレイン、だったら私は――。
「そうしてお前はレーゲンスベルグに流れ着き、あの足抜け女を助けた。俺はあの時、たまたまその場に居合わせたわけじゃない。お前が一文なしになって野宿していたと、ヴァルトから連絡をもらって、その様子を伺いにいったんだ。その段階でも、まだ俺はお前を助けようと思っていなかった。――だがあの時、お前があの女を助けようとしている姿を見て、心底自分に反吐が出た。俺は一体何をやっているんだと、そう思った」
こんなに苦しそうな、嫌悪に満ちたレインの姿を、私は見たことがない。私は驚きを持って、彼の言葉を受け止める。
「俺は拗ねていたんだろうな。俺があれほどまでに苦労して、総領になったのは、女一人を助けるためだったのかと。俺は総領になるためにあんなに努力したのに、この女は初代の親友の知己だというだけで、何の努力もなくやすやすと助けられる権利を持つのかと。だが、殴られても蹴られてもあの男を放さなかったお前を見て、あれほどの大怪我をしてまで、見ず知らずの女を助けようとしたお前を見て、ハンマーで殴られたくらいに衝撃を受けた。そして、どうしてお前があの女を助けようとしたのか、それに思い至った瞬間、自分の馬鹿さ加減に、心底頭にきた」
レインに助けてもらったあの時、彼は確かに怒っていた。その怒りの理由が判らなかったが、それは本当は自分に向けたものだったのだと、私は初めて知る。
「お前が未来のオフェリアだと、俺が確信した理由は何だと思う――お前の、目だ。初めてアルベルティーヌで見た時お前は、荒んだ目をしていた。こんな目は、陰惨な戦場を幾つも経験してきた傭兵ですらしない、そう思った。だから俺は本当は、最初から判っていたんだ。お前が、1217年に起こる全ての悲劇を味わってきた、未来のオフェリアなんだということを――それほどまでに、お前が傷つけられてきたのだということを」
そんなひどい目を、あの時私はしていたのだろうか。驚いて、だがすぐにそうかもしれない、と思った。
そうだ、あの頃の私は荒んでいた。そのことに気づくことさえできないほど。
「お前は、目の前で親を殺されたことがあるのか。お前は自分の親を助けられず、見捨てて逃げなければならなかったことがあるのか。お前は残された肉親全部が、処刑されたことがあるのか。……お前は、自分の家族を全部殺して、国を滅ぼした相手に、凌辱される気持ちが判るのか。お前は一度でも、それほどまでに他人に傷つけられたことがあるのか。大事なものを奪われたことがあるのか。それほどまでに傷つけられた人間が、あんな怪我をしてまで見ず知らずの相手を助けようとしているのに、お前は何をやっているのかと。いつからお前は、そんなご大層な奴になった。裕福な家に生まれついて、ぬくぬくといろんなもの与えられて育ててもらった俺の苦労が、一体どれほどのものだ。お前が身にまとっている権威も威光も、全部先祖が用意してくれていた借りもんだろうが。与えてもらった権威がなければ何もできない俺が、一体何を粋がっているんだと。そう思って、自分のそれまでの行いを心底恥じた」
レインは私を見た。あまりの思いがけない言葉に、震えの止まらない私を。
レイン、あなたは今、何て言った? 今私に、何て言ってくれた?
「俺はあの時、お前を助けたいと思った。お前が王女だからじゃない。お前の救出を、初代から命じられていたからじゃない。これほど他人に傷つけられ、踏みにじられた女一人、助けてやれないような男なら、手を差し伸べてもやれないような男なら、総領なんかやめてしまえ。お前一人助けられないなら、救えないのなら、どんな権威も財産も、俺自身も何もかもが無価値だ。そう心から思った」
信じられない。こんな言葉、自堕落で愚かな私に向けられていい言葉じゃない。
だけど、だけど、堪えられない。
この四年間、抑え込んできたものが、自分の中の奥深くに封じこんできたものが、あふれだしてしまう。
止められ、ない。
「俺は、お前を助けたかった。――ジュリア、これが最後まで意地張って言えなかった、俺の正直な本音だ」
もう、駄目だ。その瞬間、私の中で最後の糸が切れてしまった。
立っていることもおぼつかず、ふらついた私をレインが受け止めてくれる。そのまま支えてくれる彼に、私は懸命に言い募った。
「大丈夫……私は、立てる。自分の足で、立たなきゃ……」
「ジュリア」
「私はずっと、他人に依存していた。私はずっと、何もかもが他人任せだった。だから……私は自分の足で立たなきゃ。あなたに寄りかかって、あなたに頼りきって、甘えて生きていいはずがない」
あなたには、数えきれないほど沢山のことをしてもらった。あなたには沢山沢山、救ってもらった。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。
それなのに、足に力が入らない。
涙が、止められない。
「お前を守りたい。それは約束でもなく、総領の責務でもない。俺の望みだ」
支える腕は背中に回り、私は彼の胸の中に収まる。抱きしめられ、私は一歩も動けない。
「自分の足で立てばいい。立てる時は立って、周りの人間を支えればいい。だけど、立てない時は他人に支えてもらっていいんだ。頼っても、甘えてもいいんだ。そして今お前は、立てなくていい。今お前は、一番大事な人たちと別れてきた。その人生を思って、一番放しがたい手を放してきたんだ。そういう時は、独りで立てなくていいんだ」
優しい手が、声が、私の髪と心を梳いていく。
頑ななものを、解きほぐすように。
「そういう時は、俺にすがって、泣いていい。それを受け止めきれないほど、情けない男ではいたくない。そうありたいと、お前を助けた時からずっと、思ってきた」
それでいいだろうか。私は立ち上がれるだろうか。
そして今だけは、あなたにすがって、泣いていいだろうか。
「誰が言ってやらなくても、俺が言ってやる――よく頑張った。そして、よく俺のところに、生きて辿り着いてくれた」
私の中の堰が切れる。しゃくりあげる私を抱きしめて、レインは言ってくれた。
私の一番欲しかった言葉を。
「だからもう、怯えなくていい。もう誰にも、お前を利用させない。もうあんな薄汚い輩には、指一本触れさせはしない」
もはや何もかも、止めることはできなかった。もはや何一つ、堪えることはできなかった。
今判った。どうして私が、ガルテンツァウバーで死ななかったのだ。皇帝から無残な凌辱を受けながら、それでもどうして死のうとしなかったのか。
それは惨めだったからだ。このまま死んだのでは、あまりにも私の人生は惨めだったからだ。
私だって、誰かを好きになりたかった。私だって、誰かに愛してほしかった。
こんな風に誰にも省みられないまま、男たちの慰み物となり、利用され続けて死んでいくのでは、あまりにも自分が惨めだった。
「助けて……ほしかった……」
それは叶うことなど、信じられなかった願いだった。それでも心のどこかで、願うことを諦められなかった。
だから私は死ななかった。どれほど傷つけられても、蔑まれても、心を殺してでも生き抜いてきた。
そしてその果てに、奇跡はあった。ちゃんと、あったのだ。
「国が滅ぼされたのだから……王女だから、征服されて当たり前だなんて……そんなこと、受け入れられなかった……。嫌だった……痛かった……だけど、どこにも逃げられなかった……」
「もっと早く助けてやれなくて、ごめんな」
レインの申し訳なさそうな言葉に、私はかぶりを振る。
「ありがとう……助けてくれて、ありがとう……そばにいてくれて、力になってくれて、本当に、ありがとう……」
私はレインに、何も返せるものがない。あるのはこの胸の中の思いだけだ。
姉様は、にっこり笑って『助けてくれてありがとう』と言えばいいんですよ。シェイラは私にそう言った。そして私はどうしても、それでいいとは思えなかった。
でも、今は判る。私にはそれしかできない。そしてそれ以上にこの気持ちを伝える術が見つからない。
もはや声は言葉にならない。それでも何とか言葉を紡ごうとする私に、レインは「もういい」と言ってくれた。
もう、何も言わなくていい、と。
だから私は声を上げて泣いた。疲れ果て、涙が枯れるまで泣き続けた。この辛く苦しかった二年間の、そして満たされなかった十二年間の思いを全て吐き出すように。
そんな私を、レインはずっと支えて続けてくれた。夜が明け、朝日が昇り、新しい一日が始まるまで、ずっと。
私が立ち上がれるようになるまで、ずっと。