彼方へと送る一筋の光 opening

 私と彼と、多くの人たちを巻き込んだ長い物語は、私のこの暴言から幕を開ける。
「あなたが……あなたたちが姉様を殺したのっ!」
 娘の場と身分を弁えぬ、信じがたい発言に、母は蒼白となり、父は息を呑んだ。
 つい一月前、ここで戦いがあったとは思えぬほど美しく清められた謁見の間。けれどもここで殺されてしまった人のことを思い、私は声を限りに叫んだ。
「私はアイラ姉様を殺したあなたたちを、絶対許さない!」
 私が怨嗟をぶつけたのは、至尊の御位につく一対。一人は玉座に悠然と座り、ひざまずこうともしない私を、頬づえをつきながら見つめている。
 そうしてもう一人は、そんな王のかたわらに立っている。謁見という場にふさわしくない黒い長衣を身につけた若い男は、まるで死神のようで。
 この二人が、革命の名の下に私の大切な人を殺した。国のため、民のため、身を削って戦い続けていた人を、亡国の魔女と罵って殺した。
 そうして王と宰相となった男たち。彼らに従ってあの人を裏切り、領国の安定と副宰相の地位を手に入れた父。あの人を利用したことなど、まるでなかったかのように振る舞う母。そのすべてが許せなかった。許せるはずもなかった。
 だが、それなのに。
 そんな私の罵詈をぶつけられた男は、笑ったのだ。小さな手を握りしめて懸命に立ち、己を睨んでいる私を見て、確かに笑ったのだ。
 どこか悲しそうに。
 だが紛れもなく、嬉しそうに。
 その笑顔は、幼い私の目と心に深く焼きつき、生涯離れることはなかった。
 切なさと誇らしさと、それに遥かに勝る自己嫌悪と慙愧の念と共に。

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